ホテルを拠点にめぐる熊野の旅
写真:筆者撮影
少し開けていたカーテンのすきまから、ひとすじの光が差し込んだ。潮騒の音も聞こえる。
カーテンを全開。朝日がちょうど水平線から昇りはじめる。少し雲がかかっているせいか、赤い日の出だ。
窓辺のソファに座って、朝日が昇るのをしばし見る。ちょっと顔を出したと思った太陽は、ぐんぐんと昇っていく。かすかな光だったのが、あっというまに、まぶしい光に変わる。
新しい一日が始まる。
この朝日を見ていると、また新しい一日を始めよう、そんな気持ちになる。
ホテル浦島の朝はこうして始まった。
そんな朝を迎えられるホテルが、この夏、新たな魅力をまとった。2026年8月、大規模リニューアルの第1弾として、雄大な太平洋を見渡せる「日昇館」がリニューアルオープンした。

ホテル浦島 70年の歴史を受け継ぐリニューアル
2026年12月に創業70周年を迎えるホテル浦島は、8月1日、大規模リニューアルの第1弾として日昇館をリニューアルオープンした。
改装されたのは、日昇館の客室やレストラン、本館ロビー、そして本館と日昇館を結ぶ「うみのトンネル」。歴史あるホテルの魅力をそのままに、より快適な滞在が楽しめる空間へと生まれ変わった。
本館ロビー
本館ラウンジ
本館ラウンジ
帰るのを忘れる温泉
ホテル浦島の象徴は、やはり天然洞窟温泉「忘帰洞」だ。紀州徳川家15代当主・徳川頼倫(1872-1925)が「帰るのを忘れる」と称したことから名付けられた。迫力ある大洞窟の向こうには、荒波が打ち寄せる太平洋が広がる。洞窟と海が一体となった、ホテル浦島ならではの入浴体験だ。朝は太平洋から昇る朝日を眺めながら。夜は潮騒だけが響く暗闇の中で。五感が静かに研ぎ澄まされていく。



ホテル浦島には、もうひとつの天然洞窟温泉「玄武洞」もある。波の音が洞窟内に反響し、自然がつくり上げた神秘的な空間に身を委ねることができる。

館内にはほかにも趣の異なる温泉があり、湯めぐりを楽しむことができる。海を感じながら、のんびりと湯につかる。熊野の大自然が育んだ、至福のひとときだ。
※温泉成分により、指輪やネックレスなどの貴金属が変色する場合があります。入浴前に外してください。
食を目的に訪れるのもいい
今回のリニューアルで新たに誕生したのが、「Chef’s Live Kitchen URASHIMA」。紀州の食材を中心に、ライブキッチンで仕上げられる料理をビュッフェ形式で楽しめる。


指揮を執るのは、総料理長の半田勝也氏。銀座のフランス料理店を皮切りに、フランスのパリやオルレアンのミシュラン星付きレストランで修業。帰国後は、赤坂の全日空ホテル(現・ANAインターコンチネンタル東京)で、メインダイニングの立ち上げに携わった。

「まずは、生まぐろを召し上がってください」と半田氏。ホテル浦島のある那智勝浦で水揚げされた生まぐろを、職人が目の前で握ってくれる。天然の良港として栄えてきた那智勝浦は、延縄漁法による生まぐろの水揚げ量日本一を誇る町。一度も冷凍されていない生まぐろは、もちもちとした食感と豊かな旨みが特長だ。


「鶏料理にもこだわりました。丸鶏を低温調理で仕上げています」と半田氏。

半田氏の豊富なキャリアを生かし、フランス料理のエッセンスを取り入れながら、和洋中のジャンルにとらわれない多彩なメニューが並ぶ。







生ビールやスパークリングワイン、赤・白ワインをはじめ、30種類以上の果実酒、和歌山の日本酒や焼酎など、ドリンクも充実(90分飲み放題)。デザートも充実している。


太平洋を望む開放的な空間で、ライブキッチンから届く出来たての料理を味わう。食事そのものが、ホテルで過ごす時間の楽しみになる。




滞在そのものが楽しくなる
日昇館の客室は、今回のリニューアルでモダン和室へと生まれ変わった。セミダブルベッドを備え、琉球畳を取り入れた落ち着きのある空間だ。多くの客室から太平洋を望むことができ、朝には水平線から昇る太陽が部屋を明るく染める。
モダン和室(高層階)
スイートルームの和室
モダン和室(スタンダード)
本館と日昇館を結ぶ約90mの「うみのトンネル」は、海の世界を体感できる回遊空間。バーやショップも設けられ、館内を歩く時間さえ旅の楽しみになる。
バーでは、和歌山ならではの日本酒や梅酒、みかんジュースが用意されている。おつまみはクレーンゲームで手に入れるという、遊び心のある仕掛けも。


気に入ったドリンクは、併設のショップでお土産として購入することもできる。熊野の特産品を中心に、300種類以上のアイテムを取り揃え、旅の思い出探しにもぴったりだ。



そして、滞在中に印象に残ったのがスタッフの笑顔だ。館内ですれ違うたびに交わされる自然なあいさつや、質問に丁寧に応じてくれる姿勢に、肩の力がふっと抜ける。リニューアルされた施設だけでなく、人の温かさもまた、ホテル浦島の大きな魅力だった。
松下哲也社長
ホテルを拠点に熊野を旅する
世界遺産をはじめ、多彩な観光スポットが点在する熊野。ホテル浦島を拠点に、少し足をのばしてみよう。
●世界遺産と信仰の道・那智山
1,000年以上にわたり、多くの参拝者が目指してきた熊野信仰の聖地・那智山。世界遺産・熊野古道を歩けば、往時の面影を残す大門坂の石畳や、熊野那智大社、那智山青岸渡寺へとたどり着く。那智の滝は落差133mを誇る日本屈指の名瀑で、滝そのものを御神体とする飛瀧神社が鎮座する。自然と信仰が一体となった、熊野を代表する聖地だ。
那智の滝
写真提供:(公社)和歌山県観光連盟
●熊野信仰のもうひとつの聖地・新宮
熊野三山の一つ、熊野速玉大社を擁する新宮は、古くから熊野詣の参拝者でにぎわってきた、熊野信仰の歴史が息づく町。神倉神社は、熊野の神々が最初に降り立ったと伝わる聖地。急な石段を登った先にある巨大な「ゴトビキ岩」と新宮市街を一望する景色は圧巻だ。毎年2月には、白装束の男たちが松明を手に石段を駆け下りる勇壮な神事「お燈まつり」が行われる。
お燈まつり
●日本の原風景・丸山千枚田
三重県熊野市に広がる丸山千枚田は、日本最大級の棚田。山あいの斜面に約1,300枚もの田んぼが幾重にも連なり、四季折々に異なる表情を見せる。人の手によって守り継がれてきた景観は、日本の里山文化そのもの。熊野の海とはまた違う、この土地の奥深い魅力に出会える。
山あいに広がる丸山千枚田
●クジラと海の文化・太地
古式捕鯨発祥の地として知られる太地町。今もクジラとともに歩んできた歴史と文化が息づいている。穏やかな森浦湾では、イルカやクジラが泳ぐ姿を間近に見ることができ、シーカヤックやSUPなど、海面に近い視点から海岸美を楽しむアクティビティも人気だ。「くじらの博物館」では、鯨類の生態や太地に受け継がれてきた捕鯨文化を学ぶことができる。
森浦湾でジャンプするイルカ
●本州最南端の海景・串本
本州最南端の町・串本は、太平洋の雄大な景観に恵まれた町。潮岬では、果てしなく続く海と空を望むことができる。海の侵食によって生まれた橋杭岩は、大小40余りの岩柱が海中に並ぶ国の天然記念物。串本海中公園では、水族館や海中展望塔を通して、サンゴや熱帯魚が生息する豊かな海の世界を間近に観察できる。
朝日の橋杭岩
エピローグ
世界遺産の道を歩き、太平洋を眺め、洞窟温泉につかる。朝は水平線から昇る太陽に迎えられ、夜は潮騒を聞きながら眠りにつく。
ホテル浦島に滞在すれば、それだけでも、熊野の自然と悠久の時間に触れることができる。
一度の旅ですべてを訪れる必要はない。海辺の町を巡る旅もあれば、山あいの里を訪ねる旅もある。ホテル浦島を拠点に熊野を訪れるたび、自分だけの旅が少しずつ広がっていく。
基本情報
ホテル浦島
予約専用電話:0735-52-4111 (受付時間 9:00~18:00)
代表電話:0735-52-1011 FAX:0735-52-0275
アクセス
●東京から
JR東京駅→新幹線のぞみで1時間40分→JR名古屋駅→特急「南紀」で約4時間→紀伊勝浦駅→徒歩6分→ホテル浦島送迎船乗場→送迎船で5分→ホテル浦島
羽田空港→JALで1時間→熊野白浜リゾート空港(南紀白浜空港)→南紀白浜空港リムジンバスで約2時間→紀伊勝浦駅→徒歩6分→ホテル浦島送迎船乗場→送迎船で5分→ホテル浦島
●大阪から
JR大阪駅→特急「くろしお」で3時間40分→紀伊勝浦駅→徒歩6分→ホテル浦島送迎船乗場→送迎船で5分→ホテル浦島
創業70周年、新たな時代へ
2026年12月に創業70周年を迎えるホテル浦島。日昇館のリニューアルオープンに先立つ7月27日、記念式典が開かれた。日本共創プラットフォーム代表取締役会長CEOの冨山和彦氏、浦島観光ホテル株式会社代表取締役の松下哲也氏が挨拶。和歌山県知事の宮﨑泉氏、那智勝浦町長の堀順一郎氏が祝辞を寄せ、浦島観光ホテル株式会社専務取締役の清水貞吾氏が式典を締めくくった。
70年の歴史を受け継ぎながら、ホテル浦島は新たな時代へと歩み始めている。
リニューアルオープン記念式典でのフォトセッション
Photos:甲斐 啓二郎
取材日:2026年7月27日-28日