酒の街・西条を巡る (ATT.JAPAN ISSUE 51)

酒の街・西条を巡る (ATT.JAPAN ISSUE 51)

西条は、広島市の隣・東広島市の中ほどに位置する。街のあちこちから顔を覗かせる煙突が、酒都の証。緑豊かな山々に囲まれたこの街は、標高250メートルほどの盆地にあり、夜と昼・冬と夏で寒暖の差が激しく、酒の仕込みに理想的な環境を実現している。龍王山の伏流水がこんこんと湧き、稲作も盛ん。日本三大銘醸地のひとつである西条を、今回訪れてみた。

西条の魅力のひとつは、八つの蔵元がひとつのエリアに集結していること。西条駅からロータリーを経て、「酒蔵通り」。観光案内所では街歩きマップを入手でき、酒蔵の開放状況などを教えてもらえる。

通りには、格子状の紋様が映える酒蔵が点在する。各酒造の前には酒づくりにも使われる湧き水が引かれ、自由に試飲できる。とてもおいしく、地元の人も自前の容器にたっぷり汲んで帰るそうだ。

最初に立ち寄ったのは賀茂鶴酒造。酒づくりの解説映像を見つつ、何種類もの試飲用の酒を頂く。芳醇な香りが鼻から抜け、同時に体の奥から温まってくるのがわかる。甘さ・辛さがそれぞれ異なる。自分スタイルのお酒を探してみるのも良さそうだ。
酒づくりの第一歩となる、白米の洗米・蒸米の様子を特別に見せて頂いた。芳しい蒸気が立ち込める中、杜氏(とうじ;酒づくりの総監督者)の合図と共に、皆で息を合わせて米を洗う作業にあたる。真剣な眼差しは、何かの儀式に取り組んでいるようにも見える。

次に訪れたのは賀茂泉酒造。米と米麹のみを原料に使用する旧来の製法を再び取り入れた(純米酒)、先駆け的存在だ。「日本酒の本来の姿を取り戻したかった」と語る前垣社長が、自ら醸造施設を案内してくれた。醸造・発酵用の巨大なタンクが並ぶ様子は圧巻。覗き込むと甘酸っぱい香りがする。発酵が進み、絶え間なく泡立つ様子と音に暫し見とれる。

伝統を重んじながらも、各々の酒造は新たな挑戦にも取り組む。賀茂輝酒造の酒蔵カフェ「円座(わろうだ)」では、吟醸酒(上質な日本酒)をかけて食べる話題のスイーツ「吟醸シフォンケーキ」を試してみた。ふわふわシフォンに柔らかな香りが合わさり、何とも美味(お酒のかけ過ぎには注意)。亀齢(きれい)酒造では清酒を練りこんだ手延べうどんを販売しており、なめらかな口当たりが好評だ。福美人酒造で毎年新たに作成する干支ボトルは、「飾ってもお洒落、使っても粋」な一品で、贈り物として人気が高い。

夜はお燗(適度に暖められた日本酒)を楽しみつつ、美酒鍋を堪能した。鶏肉と野菜をよく炒めた後、酒を入れて煮込み、塩こしょうで味を調えるシンプルだが豪快な料理。お酒のおかげで材料は中まで柔らかくなり、素材の味が引き出され、実に旨い。日本酒を心ゆくまで満喫した1日となった。

さらに楽しむ西条

毎年10月には「酒まつり」が催され、全国から900を超える銘柄の酒が集められる。酒づくりの神が祭られた松尾神社から出発する御輿行列に始まり、酒に関するイベントが盛りだくさん。酒づくり全般に興味を持ったら、酒類総合研究所の見学(要予約)も面白い。酒類の高度な分析や研究、また酒類製造・流通業者の講習も行っているが、参観者も館内の酒造施設の見学や、酒類のテイスティングが出来る。

 

酒づくりも山の手入れから
酒づくりで重要なのは、水と米。そしておいしい水と米のための環境を守る活動も行われている。2001年に発足した「西条・山と水の環境機構」では、龍王山に生い茂った雑木を間伐し、山の保水力を向上。切り倒した木はパルプ状に加工され、酒米「山田錦」を栽培する田地に撒いて肥料にされ、西条の美酒を創り出している。

 

特定名称酒
原料や製法が一定の基準を満たす清酒には、特別なランクを与えられる。中でも精米歩合(原料の米の外側「ぬか」を削り落とす割合)が60%以下のものを「吟醸酒」、50%以下のものを「大吟醸酒」と言う。また、アルコール添加をせずに米と米こうじ及び水のみを原料としたものを「純米酒」という。これらのランクはラベルに必ず記載されるので、酒を選ぶ際の目安のひとつとしたい。

アクセス 東京から: 東海道・山陽新幹線「のぞみ」で4時間→広島駅で山陽本線に乗り換え35分 羽田空港から飛行機で1時間20分→広島空港からタクシーで30分 / 大阪から: 東海道・山陽新幹線「のぞみ」で1時間30分→広島駅で山陽本線に乗り換え35分
URL http://saijosake.com/
ライター
att.JAPAN編集部
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