13世紀末、イタリア人マルコポーロは「東方見聞録」を書き、その中で日本をジパングとして紹介。そして、そのなかで、ジパングを「黄金の国」として紹介した。なぜ、黄金の国、としたのか、はっきりとしたことはわからない。ただ、日本にはたしかに、黄金の金色文化があった。
日本列島の東北地方は、古来黄金の国として、全国にその名を知られ、外国でまで有名であった。12世紀初め、金は、現地の独立した強力な政治力、奥州藤原氏によって平泉に集積され、当時の都、京都に匹敵する独特の平泉文化をつくりあげた。のちに、平泉を訪れた俳人松尾芭蕉(1644-1694)も、平泉への感動を「おくのほそ道」で「夏草や兵どもが夢の跡」「さみだれの降り残してや光堂」という俳句に詠んだ。
北東北は、広くて、人が少なく、寒い。けれど豊かな自然や温泉に恵まれた旅情豊かな土地。一度で全部見て回るのは難しい。今回は交通アクセスのよい地域を中心にご紹介しよう。
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岩手
– 平泉
およそ900年前、多数の寺院や庭園を有する優雅な都が平泉に造営され始めた。平泉は、奥州藤原氏が築き上げてきた平泉黄金文化の中心地。かつての日本の仏教文化の最先端はここにあり、藤原氏の支配する北東北は、事実上、当時の中央政府である朝廷から独立した国であった。奥州藤原氏は強大な武力と政治的中立を背景に、朝廷における政争とは無縁に、独自の政権と文化を確立。清衡、基衡、秀衡、泰衡と4代100年に渡って繁栄を極めた。平泉は、京から見ると、まばゆく輝く黄金の都であり、当時の都人は平泉に高尚なあこがれを抱いていた。
藤原秀衡は、源頼朝に追われた義経(1159-1189)を匿ったが、秀衡の死後、義経は自害。その後、1189年に奥州藤原氏は滅亡した。そのちょうど500年後の1689年、松尾芭蕉が平泉を訪れる。そこには往時の栄華はなく、旧跡は田野となってひろがっているばかりだった。
平泉の文化遺産は、世界遺産への登録が期待されている。幾多の戦乱や火災などのため失われた建築物も多いが、今も往時をしのぶ史跡が点在している。レンタサイクルで回るのもいい。
中尊寺:
850年、比叡山延暦寺の慈覚大師が開山したといわれ、12世紀初めに藤原清衡によって大規模な建設が行われた。1124年に金色堂が建てられる。屋根を除く全てに金箔が押され、奥州藤原氏の権力と財力の象徴とも言われる。約3000点もの国宝や重要文化財の多くは、宝物館である讃衡蔵に収蔵されている。
毛越寺:
奥州藤原氏の二代基衡が建立を進め、三代秀衡が完成させた。度重なる火災で焼失したが、壮大な伽藍と庭園の規模は京のそれを凌いだと言われている。大泉が池を中心とした典型的な浄土庭園は、最も美しい平安時代(794-1185頃)の庭園といわれる。
– 厳美渓・睨鼻渓
磐井川の約2kmにおよぶ渓谷が厳美渓で、国の天然記念物に選定されている。散歩道が整備されているので、樹林の間を散策しながら眺められる。睨鼻渓は砂鉄川の渓谷で、高さ100mの断崖絶壁が約2km連なる。舟下りの舟が出ている。
– 盛岡
城下町として発展。石川啄木、宮沢賢治、原敬、新渡戸稲造らゆかりの地。八幡平方面や三陸方面への起点でもある。
– 小岩井農場
岩手山南麓に広がる。乗馬、牛の乳搾り体験、シープ&ドッグショーなどが楽しめ、農場産の肉やバター、チーズ、チーズケーキなども味わえる。
秋田
– 角館
江戸時代(1603-1867)初期、城主芦名氏が築いた城下町。芦名家断絶後には、佐竹氏が角館の藩主となった。通りは、途中で直角に曲がっている。これは戦時にそなえた造り。小京都と呼ばれ、今も当時の武家屋敷が残る。
薬医門が有名な青柳家の屋敷は、三千坪の屋敷内に六つの資料館があり、代々伝わる武具、美術品、秘蔵の品が公開されている。石黒家は、角館に現存する武家屋敷の中で、最も格式が高く古い屋敷。黒板塀が美しい。岩橋家、松本家は映画「たそがれ清兵衛」のロケにも使われた。美しいしだれ桜の古樹は、17世紀に京都から移植したものといわれ、国の天然記念物のものも多い。
– 八幡平
岩手県・秋田県に広がる高原。頂上近くまで道路が通り、バスで行くのも便利。湿原、沼が点在し、原生林や高山植物も見られる。登山、自然探索、スキーなどが楽しめる。
– 田沢湖
水深日本一の田沢湖。遊覧船や、湖の周りのサイクリングが楽しめる。
– 秋田駒ケ岳
標高1637m、花の名山として知られる。8合目までバスで行けるため、気軽にハイキングが楽しめる。
青森
– 八甲田山
一つの山ではなく、10の山々が連なる北八甲田連峰と、6峰が連なる南八甲田連峰の総称。八甲田ロープウェイの山頂公園駅を起点に、散策コースが整備されている。
毛無岱湿原:
毛無岱湿原は湿生植物の宝庫。下毛無岱を見下ろす急な階段からの眺めはじつに壮観。湿原地帯は木道が整備され歩きやすいが、山道もあるのでそれなりの装備が必要。
地獄沼:
酸ヶ湯の近く、地獄沼は爆裂火口湖。今も沼底から亜硫酸ガスや熱湯が湧き出している。
東北大学植物園八甲田山分園:
東北大学植物園八甲田山分園は八甲田に生育する植物600種を有す。蔦温泉を囲む自然林には、蔦沼をはじめとする6つの沼が点在し、遊歩道が整備されている。
– 十和田湖と奥入瀬渓流
十和田湖は外輪山に囲まれた深く青いカルデラ湖。奥入瀬渓流は、十和田湖の子ノ口から流れ出た全長14kmの渓流で、遊歩道から美しい流れや滝が楽しめる。新緑、紅葉の時期は特に美しい。
– 弘前
城下町の面影を残す武家屋敷と、東北唯一の現存する天守閣を持つ弘前城。4月下旬から5月にかけて、弘前公園の桜が美しく咲く。
– 津軽
冬の厳しさや冷害にとらわれながらも、昔から海や森の幸に恵まれ、中国や北海道、徳川幕府との交易で栄えた歴史を持つ。作家太宰治(1909-1948)の故郷でもあり金木には生家も残る。田園風景も美しい。
– 白神山地
青森県から秋田県にかけて広がる山地で、人の手が加えられていないブナの原生林が残され、世界遺産に登録されている。
暗門の滝は歩いて行きやすく、観光しとして人気があるが、危険な箇所もあるので通行には注意。通行止めになることもある。
– 恐山
和歌山県高野山、滋賀県比叡山とともに日本三代霊山のひとつ。立ち込めた硫黄匂いと荒涼とした風景。宇曽利湖は青くしずまりかえり、まるで死の世界のよう。使者の御霊を呼び、口寄せを行うイタコで有名。
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<食べる>
岩手
岩手盛岡なら冷麺。きりっと冷え、つるっとした喉越しがなんとも美味しい。
降参するまで、給仕さんが容赦なく椀の中にそばを放り込む、わんこそばや、ゆでたうどんの上に、きざんだキュウリと長ネギ、肉味噌をのせたじゃじゃ麺も有名。
青森
青森津軽の郷土料理はじゃっぱ汁。じゃっぱ=魚のアラを、ニンジン、大根、ゴボウなどの野菜と煮込んだ鍋。青森の陸奥湾は昔からホタテの養殖で有名で新鮮なホタテを食べられる。
八戸は、イカの水揚げ日本一を誇り、ウニやホヤなど獲れたての海産物が味わえる。八戸の八食センターは、約60の店が入るフードセンターで八戸の食が楽しめる。朝市も有名。
青森はりんごも有名。
秋田
秋田のきりたんぽ鍋は、ご飯を練って棒状にしたきりたんぽと野菜を、比内鶏のダシと醤油、酒を加えたスープで煮込む。
300余年前、秋田県 稲庭村にルーツがあるといわれる稲庭うどんは、シコシコツルツルと麺の細さが特徴。
美味しい地酒も見逃せない。
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<温泉>
温泉大国、日本のなかでも北東北は、「本物の温泉」に恵まれた地域である。大規模な温泉は少ないが、秘湯や湯治に適したのんびりとした湯に恵まれている。水質は濃く、効能が高い。
酸ヶ湯温泉(青森)は八甲田山・大岳の西麓に位置し、開湯300年を迎える名湯。80坪の広さがある名物の千人風呂は混浴だが、女性専用の時間もある。男女別の浴場もほかにある。
蔦温泉は、1918年の建築。木材を使ったしっとりとした雰囲気のお風呂は、浴槽の底から温泉が湧出。
黄金崎不老ふ死温泉(青森)は、東北では珍しく波打ち際に露天風呂があり、立ち寄り利用できる。晴天なら海に沈む夕陽が望める。
JR三沢駅舎の南側には約73万㎡の広大な古牧温泉(青森)が広がる。4棟の温泉ホテル、レジャーランドなど一大リゾート地。4000㎡もの広さを誇る「日本一の大岩風呂」などが楽しめる。
田沢湖高原温泉郷(秋田)は、眼下に田沢湖、遠くに鳥海山を望む自然豊かな田沢湖高原にある。
乳頭温泉郷(秋田)は、ひなびた風情と源泉そのままの温泉があふれる名湯。田沢湖の北東、乳頭山麓に位置し、ブナの原生林に囲まれ、7軒の宿が点在。鶴の湯温泉は乳頭温泉郷の中で最も古い歴史を持つ。妙の湯温泉は山奥の宿とは思えない洒落たインテリア。美味しい食事に定評がある。
強酸性の玉川温泉(秋田)は、効能の高さで知られる。地熱で温められた岩の上に横になり体を温めていく天然岩盤浴で療養する人たちの姿も多く見られる。
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<夏祭り>
夏は祭りの季節。祖霊を供養し、五穀豊穣を祈願する。東北の短い夏を惜しむかのように、踊り、とびはね、熱気が渦巻く。
岩手
盛岡さんさ踊りは、岩手県盛岡市にて毎年8月1日から3日にかけて行われる。独特のかけ声と共に踊り手が優雅に舞い、太鼓が打ち鳴らされる。中央通り一帯をパレードは進む。
青森
360万人以上の人出で賑わうのは毎年8月2日-7日の青森ねぶた祭り。武者の形の壮大なねぶたがひかれ、踊り手が乱舞する。ねぶたの里には、ねぶた約10台が展示されており、いつでも祭りの醍醐味が体験できる。
弘前では8月1日~7日弘前ねぷた。扇型や人形型のねぷたが町を練り歩く。
五所川原立佞武多は、青森県五所川原市で8月4日から8月8日に開催される祭り。高さが最大で20m強にも達する巨大な山車が運行される。
秋田
竿燈は毎年8月初めに秋田県秋田市で行われる。竿燈全体を稲穂に、連なる提灯を米俵に見立て、額・腰・肩などにのせ、豊作を祈る。秋田市民族芸能伝承館には本物の竿燈が飾られ、担いで重さを実感することもできる。
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