庄内・新潟
本州の東北の日本海側に位置する、庄内・新潟エリア。見渡す限りの庄内平野に、出羽富士の別名を持つ秀麗な鳥海山が雄雄しくそびえる。歴史ある港町、酒田と城下町、鶴岡は、今、映画「おくりびと」のロケ地としても注目を集める。出羽三山に息づく山岳信仰。城下町と温泉を楽しむ村上。独特の文化を持つ佐渡。そして新潟の食の魅力。かつて松尾芭蕉も訪れた、日本の原風景をたどる旅をご紹介しよう。
アクセス
東京→新潟: 上越新幹線 2時間
新潟→酒田: 白新線・羽越本線 特急で2時間20分
新潟→鶴岡: 白新線・羽越本線 特急で1時間50分
新潟・庄内
ブックマーク
庄内
酒田
江戸時代には最上川の舟運と北前船の拠点港として栄え、いまも日本海側有数の商業都市。北前船の繁栄によってもたらされた莫大な経済力は、京都や大坂から当時の最先端の文化をもたらし、酒田に多くの文化を開花させた。
酒田を語るのに欠かせないのが、本間家。酒田を拠点に富を築き、かつて日本一の大地主と言われ、商売や公共・水利事業にも取り組んだ。本間家旧本邸は3代目当主 光丘が、藩主酒井家のために1768年に建造。表は二千石旗本格式の武家屋敷で、その奥は商家造りとなっているめずらしい建築様式の建物。武家造りは木曽ひのきや飛騨高山春慶塗りなど、贅沢なつくり。天井は高いが、刀を振り回せないように鴨居は低く、欄間は透けて密談はできない。身分制度の厳しかった江戸時代、商人として商家造りの方を住まいとした。台所の床は一般に土間だったが、様々な業績が認められ士分対等の本間家では板張りが許された。強い風が吹く酒田は火事が多い。平屋建ての母屋を火から守るため、北側、西側には2階建ての蔵が建てられ、水分が多く火よけになるタブノキが植えられている。
本間美術館は、本間家の旧別荘として建築された。江戸時代は藩主酒井家が使い、明治時代から昭和にかけて酒田の迎賓館として利用された。美術品の多くは、諸藩からの拝領品や客人をもてなすため調度品として用意された品々など、来歴も様々。鳥海山を借景とした庭園には、日本各地の銘石が置かれている。行きに米を積んでいた北前船は、帰りは古着や薬、瀬戸物を積むが、荷が軽くなってしまうため、船を安定させ、船足を速めるため、重しとして石を積んで帰った。
広々とした飯森山公園内のモダンな建築は、土門拳記念館。前面には池、広大な水田地帯を前景に、鳥海山を眺望する絶好の場所にある。酒田出身の著名な写真家、土門拳の全作品7万点の寄贈をうけて1983年に開設された世界初の個人写真美術館である。
12棟の米蔵が立ち並ぶのは、山居倉庫。ドラマ「おしん」のロケも行われた。倉庫に沿ってケヤキ並木が続き、爽やかな散歩が楽しめる。
おくりびとの「NKエージェント事務所」のロケ地となったのは旧割烹小幡。山王クラブは旧料亭。明治以来の建築美と「傘福」が鑑賞できる。海向寺には、即身仏2体が安置されている。日和山公園からは港町が一望できる。市内観光には、乗り捨てできるレンタサイクルを利用するのも便利だろう。トビウオなど魚介類でだしをとった酒田のラーメンも食べてみたい。
10月~12月で、「地酒フェア秋の膳」が開催される。郷土料理や地魚料理、地元7蔵元の純米吟醸を料理店で味わってみてはどうか。[問] (社) 酒田観光物産協会 [電] 0234-24-2233
飛島
山形県唯一の離島、飛島。船で90分。酒田港の39km沖合いに浮かび、美しい自然を残す。歩いて一周しても2時間程度。信号がひとつもない。渡り鳥の中継地であり、春は大陸から来る鳥と列島を南下する鳥でにぎわう。釣り、海水浴なども楽しめる。暖流が流れているため、意外と暖かく、一年中タブノキなどの常緑広葉樹に覆われている。飛島で作られるトビウオ(アゴ)を干したダシは知る人ぞ知るおいしい天然ダシだ。
鶴岡
庄内藩酒井氏14万石の城下町。文学者、藤沢周平の故郷で、作品に登場する海坂(うなさか)藩のモデルで、時代小説ファンにはたまらない都市である。「蝉しぐれ」など藤沢原作の映画の多くのロケが行われたほか、最近では「おくりびと」の撮影も現役の銭湯である「鶴の湯」はじめ市内各所で行われた。庄内映画村資料館には映画のセットや小道具、資料などが陳列されている。また、9月12日(土)には、庄内映画村オープンセットも公開され、情緒あふれる「庄内藩レトロバス」で訪れることができる。
庄内平野は古くからの穀倉地帯で、米も豊かで野菜もうまい。有名なイタリアンの店、アル・ケッチァーノは全国から人が訪れる。
湯野浜温泉は日本海沿いにある古くからの温泉郷。加茂水族館には、常時30~40種のクラゲが展示され、展示種数では世界一。2008年のノーベル化学賞を受賞した下村脩・米ボストン大名誉教授からアドバイスを受け、オワンクラゲの発光に成功した。
湯田川温泉は、金峯山の麓に沸くのどかな温泉街。日本海に注ぐ温海川沿いに開けたあつみ温泉は1100年の歴史を持ち、八乙女伝説のロマン息づく由良温泉、湯野浜温泉、湯田川温泉とともに庄内を代表する温泉街である。
出羽三山
羽黒山、月山、湯殿山の三山を、出羽三山といい、東北随一の霊場である。荒行で知られる修験道がいまも息づく。開山は1400年前。巨大な杉並木の参道を進めば、国宝の五重塔が現れる。羽黒山頂に至る2446段の石段の両側には、樹齢300年から600年におよぶ杉並木が続く。この杉並木は、フランス語の旅行ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン2009」に三ツ星で掲載された。門前町の手向にはいまも多くの宿坊がある。
新潟
村上
歴史ある城下町。松尾芭蕉も滞在し、今でも彼が泊まった旅籠や参詣した寺が残る。雅子妃殿下にもゆかりが深く、雅子妃殿下の出身である小和田家の先祖は旧村上藩の藩士であった。
曲がりくねった路地に点在する伝統的な家屋、村上城跡、武家屋敷が江戸の面影を伝える。町屋造りと呼ばれる独特の建築様式が見られ、囲炉裏のある茶の間、高い天井、黒く太い梁や柱などが特徴。3月には雛人形が飾られ、町屋と雛人形を見ることができる。
三面川は、秋にはたくさんの鮭がのぼってくる。村上では昔から鮭が特産として知られ、独特の鮭文化を築いてきた。三面川だけに残る伝統漁法で鮭を捕る。イヨボヤ会館では鮭文化の歴史や伝統が展示されている。軒先に吊るされた塩引き鮭は村上ならではの風物である。村上に伝わるサケ料理は100種を超え、鮭1匹を頭から尾ひれまで何一つ捨てることなく使いきる。10月から12月上旬が旬の時期。
村上藩では城下の発展に力を注ぎ、さまざまな産業が盛んになった。伝統工芸品のひとつが、村上堆朱。丹念に彫刻された木製素地に漆を何回も重ねて作られる。茶の栽培も奨励され、村上茶は北限の茶として知られる。おいしい地酒もみのがせない。大洋盛、〆張鶴などの名酒がある。大洋酒造は350年の歴史を持つ蔵元だが、予約をすれば蔵の見学が可能。近郊の農家でとれた新鮮な野菜、魚介類、山菜などの露店が立ち並ぶ市が、毎月6回立つ。
日本海沿いに広がる瀬波温泉は、1904年、石油採掘のボーリング中にお湯が湧き出したのが始まり。水平線に沈む夕日が部屋や風呂から眺められる。日暮れ前に宿に入り、湯に浸かりながら夕日を楽しもう。雪景色の日本海も魅力だ。日本海の幸を豊富に使った料理や地酒、コシヒカリなどの美味しい料理も楽しめる。
7月に行われる勇壮な村上大祭は、新潟県下三大祭りのひとつ。19台の豪華な屋台山車が見もの。10月18日、19日には岩船大祭が行われる。海上の安全、商売繁盛、大漁を願う祭りで、屋台や神輿が町中を練り歩く。
11月1日~14日で、「いなかご馳走まつり」が開催される。萱葺き屋根に囲炉裏の民家で田舎料理が味わえる。[問] 村上市・岩船郡連携イベント実行委員会(村上市商工観光課)0254-53-2111
佐渡島
北には1000メートル級の大佐渡山脈、南には小高い山々が連なる温暖な小佐渡山脈があり、シュロやソテツなどの南国特有の植物も見ることができる。2つの山脈の中央部には米どころで知られる広大な平野と湖がある。佐渡の海は、日本でも有数の透明度を誇り、絶好のダイビングスポットとしても知られている。
かつて島流しの地であった佐渡には、政争に敗れた文化人や知識人、貴族階級者が多く流された。そのため、彼らの都での生活様式や文化がさまざまな形で伝えられた。
能楽の大成者である世阿弥(ぜあみ)は、1434年、72歳の時に佐渡に流された。また、能楽師の出身の佐渡奉行・大久保石見守長安が能楽を奨励したことなどで、佐渡では能が盛んとなった。初めは奉行所の役人たちの教養として取り入れられた能だったが、次第に神社に奉納する神事として発展。本間家初代の秀信が宝生座を開き、次第に庶民の間にも浸透していった。本間家は現在18代目、佐渡宝生流の家元として伝統を守り続けている。30以上(かつては200以上)の能舞台があり、毎年4月の演能から10月まで、各地の能舞台で幽玄の世界を楽しむことができる。
鬼太鼓「オンデコ」は佐渡にしかない珍しい古典芸能。勇壮な太鼓に合わせて鬼が狂ったように舞う。悪魔を払い、豊年を祈念する神事芸能である。
佐渡を拠点に世界的な公演活動を行なう太鼓芸能集団「鼓童」が、1988年より開催しているアース・セレブレーション。民族音楽・芸能のアーティストらを招き、野外コンサートなどが行われる。2009年は、8月16日~8月18日で行われた。
古くから金銀が取れるところとして知られていた佐渡では、徳川幕府が金山開発を進めた。最盛期の17世紀初めには世界一といわれるほどの産出量を誇り、採掘は1989年まで続いた。採掘作業風景が観光用に再現されている。
佐渡産コシヒカリ、甘くてジューシーなおけさ柿など美味しい農産物も多い。カキや寒ブリ、えび、カニは秋から冬にかけての代表的味覚。うまい米と水があるため、当然ながら酒もうまい。
健脚派には佐渡をめぐる自転車ツアーもお薦め。岡ツアーズ(Tel: 0422-26-6644)では、東京からの6泊7日の自転車ツアーを英語で催行している。脚に自信のある方はぜひ。
新潟市
新潟駅から、6連のアーチが美しい万代橋をわたれば古町にいたる。料亭が軒を連ねる江戸時代からの繁華街で、京都の祇園、東京の赤坂・新橋と並び称される芸妓の町だ。コシヒカリ、地酒、サケ、寒ブリなどさまざまな美味しい食で知られる新潟。ぜひ豊富な食文化を堪能したい。新潟で寿司を食べるならオトクな企画、「極み」を利用しよう。新潟の地魚+ウニ・トロ・イクラなどの、厳選特上にぎり10カンで、3,000円(お椀付き)。市内の料理店や寿司店で味わえる。
「新潟花街茶屋」では、気軽に芸妓の舞を楽しめる企画が行われる。[問] (財) 新潟観光コンベンション協会 [電] 025-265-8000。
新潟市内の新潟島では、一周15kmの自転車道でサイクリングが楽しめる。世界のブランド自転車もレンタルできるのでぜひ利用してみてはどうか。
妻有郷
長野との県境近くの信濃川流域で豪雪地帯として知られる地域。河川に沿って階段状の台地が続く。2009年7月26日~9月13日、大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2009が開催された。大地の芸術祭2009・秋季特別展として、10月3日~11月23日の土日・祝日で、里山の芸術作品を巡るツアーが開催される。
<コラム>
1) JR EAST PASS SPECIAL
JR東日本では、2009年10月から3ヶ月間実施される「新潟デスティネーションキャンペーン」に合わせ、訪日外国人向けに、期間限定商品「JR EAST PASS SPECIAL」を発売する。詳しくは、http://www.jreast.co.jp/e を参照。
2) 映画「おくりびと」
酒田市では、第81回アカデミー賞「外国語映画賞」受賞作品「おくりびと」のロケ地マップを用意。NKエージェント事務所(旧割烹小幡)では、セットが再現されている。入口には足跡がマーキングされているので、主人公・大悟と同じ角度での記念写真撮影もできる。鳥海山をバックに大悟が川堤でチェロを弾くシーンは、鳥海山の麓、遊佐町(ゆざまち)の月光川で撮影された。椅子が置いてあり座って写真を撮ることが可能。
3) にいがた館NICOプラザ
東京の日本橋・にいがた館NICOプラザ(http://www.nico.or.jp/nihombashi/ 日本語)では、新潟の特産品などの展示が行われているので、興味があればぜひ立ち寄って。