人はなぜ熊野を目指すのか

「熊野に来たことがありますか?東京から遠いけれど、一度熊野の魅力を知った人はその後何度もリピートするほど好きになります。案内するのでぜひ来てください」。友人を介して知り合った和歌山県新宮市の知人からそんなお誘いがありました。実は10年ほど前、熊野本宮大社や那智の滝などを訪れたことがあったのですが、日程の都合上駆け足で見ただけなのが心残りでした。深い森と山の景色が印象深く、いつかまたゆっくり訪れたいと思っていましたので、これも何かの縁。この夏、熊野を再訪してきました。

川舟くだり

新宮市のある熊野は、見渡す限りの山と海に囲まれた紀伊半島の南の地域に位置します。雄大で神秘的な自然に包まれ、ただならぬ神仏の気配が漂います。2004年、この辺境の地にある熊野古道と熊野三山などの霊場が世界遺産に登録されました。熊野川の一部が世界で唯一「川の参詣道」として登録されているのも特徴です。かつて皇族や貴族が熊野詣に利用した川舟下りが近年復活し、人気を呼んでいます。

熊野川川舟下り。木造の小船で1200年前の参詣を追体験できます。(熊野川川舟センター(道の駅瀞峡街道熊野川)→熊野速玉大社近くの権現川原:90分、12-2月運休、完全予約制)

問合せ:熊野川川舟センター 0735−44–0987

アクセス 乗船場所へのアクセス:熊野御坊南海バス川丈線「道の駅熊野川」

瀞峡めぐり

今回の旅では、新宮でできるもうひとつの川舟・瀞峡めぐりを体験しました。瀞峡は奈良県・和歌山県・三重県にまたがる国の特別名勝の大峡谷。2022年から川舟が登場し、川からの眺めを楽しめます。

ライフジャケットと編み笠を身に着けて乗船

切り立った崖や奇岩、洞窟、滝など、ダイナミックな景色が続き、夢中でカメラのシャッターを切っていました。

次々と展開される絶景

奈良県、和歌山県、三重県を流れる熊野川。三県の県境ポイントに近づきます。

実は前日まで台風がこの地域に停滞し、悪天候や水量等で運休の心配もあったのですが、なんとか無事に運航。美しいエメラルドグリーンの川面でしたが、「いつもはもっともっと透き通ってるんですよ」と少し悔しそうな船頭さんでした。

ガイド上手なベテランの船頭さん

瀞峡めぐり(玉置口サテライト(瀞峡めぐり乗船場)→瀞峡:往復40分、月曜運休、完全予約制)。問合せ:熊野川川舟センター 0735−44–0987

アクセス 乗船場所へのアクセス:JR新宮駅 → バスで36分 → 日足(ひたり)→ 熊野川町デマンドタクシー(要予約、一律100円)で30分 → 玉置口

新宮市散策

数多くの世界遺産を有する新宮市。日常の風景に神代と現代が混在するちょっと不思議な町を探索してみました。

まずは熊野三山のひとつで、熊野川河口近くに立つ熊野速玉大社に参拝。全国の熊野神社の総本宮です。

近くのとらやは古民具を扱う骨董店。BGMにジャズが流れる心地よい空間で、比較的安価なものもあるので気軽に立ち寄れます。

着物や帯で作ったコースターは手軽なお土産

そして、神倉神社。高さ80m近い断崖絶壁にあり、熊野の神々が降り立ったといわれているご神体のゴトビキ岩を祀っています。538段の急峻な石段を登るのは大変でしたが、降りてくるのはそれ以上に怖かった。

近くの仲氷店に吸い込まれるように入れば、古座川の清流から作られた「純氷」を薄く削って仕上げたかき氷。頭がキーンとならない氷で、大汗をかいたあとに心地よい。

仲氷店の抹茶ミルク金時

この神倉神社で毎年2月6日に行われる例祭が御燈祭り。およそ2000人の白装束の男たちが、暗闇の中、538段の急な石段をたいまつを持って駆け下ります。火の滝がうねるような勇壮な火祭りはぜひ見てみたい。

新宮の食

新宮の食といえば、めはり寿司やさんま寿司、熊野牛が有名ですが、刺身、地鶏料理、中華料理、和歌山ラーメン等もおすすめ。海、山、川がそろう新宮は実は食材の宝庫で、何を食べてもおいしいのです。

めはり寿司

和歌山ラーメン

速水
和歌山ラーメンの名を全国区にした井出商店直伝の醤油豚骨スープの和歌山ラーメン

アクセス 新宮市へのアクセス ■東京から ●羽田空港→飛行機で70分→南紀白浜空港→空港連絡バス→JR白浜駅→特急くろしおで2時間→新宮駅 ●JR東京駅→新幹線で1時間40分→名古屋駅→特急南紀で3時間30分→新宮駅 ●大宮・池袋・新宿・横浜→高速バスで8時間30分~10時間55分→新宮駅前
■京都/大阪から ●JR京都駅→快速で30分→新大阪駅→特急くろしおで4時間20分→新宮駅 ●関西国際空港→JR快速で13分→日根野駅→特急くろしおで3時間20分→新宮駅

まだまだある熊野の魅力

広大な熊野。見どころはまだまだ尽きません。熊野古道は世界中から巡礼者やハイカーが訪れる「歩き旅」の聖地でもあります。難しいことはわからないけれど、なにか魅かれるものがあるという人はみずからの足で歩いてみてはどうでしょうか。六つの道で構成される熊野古道はそれぞれに個性があり、どのように歩くか、好みや体力、目的などによってアレンジができます。

田辺から熊野本宮大社へとつながる中辺路は古くから多くの人々が歩き、今も人気のコース。途中にある民宿やゲストハウスに泊まりながら、2~3日かけて歩くのが一般的です。長く険しい山道が続くので、登山と同じ心構えと装備をそろえましょう。「春と秋は多くの人で混んでいますし、夏は蒸し暑い。静かな古道歩きを楽しむなら冬がおすすめ」。(一社)田辺市熊野ツーリズムビューロー(0739-26-9025)の武田事務局長はそう語ります。

紀伊勝浦には、熊野三山のひとつである熊野那智大社と那智の滝があります。落差133mの那智の滝は、落差日本一、日本三大名滝の一つです。

名湯ぞろいの和歌山県の中でも勝浦温泉は南紀随一の大きさを誇ります。勝浦港からボートで5分。ひとつの島にひとつの旅館、それが熊野別邸中の島です。紺碧の海に囲まれた静かな宿。眼前に海が望める露天風呂では開放感あふれる温泉を楽しめます。

熊野御坊南海バスでは熊野の世界遺産を巡る定期観光バスを運行しています。半日で効率的に回るコースと、1日で熊野三山をめぐるコースの2コースがあり、効率的にまわりたい方には便利なプランです。問い合わせ:熊野御坊南海バス株式会社 0735-22-5101

番外編 玉置神社(奈良県)

「新宮に行くなら、可能ならぜひ玉置神社も訪れてみて。なかなか行けるところではないので」。何人かの人にそう言われました。標高1076m、奈良県十津川村の玉置山山頂近くにあり、日本最古の神社の一つ。修験道の大霊場として降盛しました。山深い境内を歩いていると、古代からの聖地という神聖さを感じます。「神様から呼ばれた人しかたどり着けない」と言われているとおりの、神秘的なスポットでした。

玉置神社の駐車場から見える山並み。雲の切れ間から一瞬光が差し込みました。

 

かつて後白河上皇(1127~1192)が34回(33回という説もあり)も詣でたという熊野。言葉にできないパワーを感じ、上皇の数には到底及びませんが、私もまた訪れるだろうなという予感を感じながら帰路につきました。

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ライター
Yoko
元att.JAPAN編集長。日本各地を旅し、日本の魅力を再発見中。とくに山々が連なる景色には無条件に心が揺さぶられます。

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